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福岡高等裁判所 昭和54年(ネ)56号 判決

控訴人 松島キクヨ

〈ほか二名〉

右控訴人ら訴訟代理人弁護士 梅津長谷雄

被控訴人 甲野太郎

右法定代理人親権者父 甲野一郎

同母 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 柴田国義

主文

原判決中、被控訴人に関する部分を取消す。

被控訴人は控訴人松島キクヨに対し六五九万〇四二六円及びこれに対する内金五五九万〇四二六円につき昭和五一年七月五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人は、控訴人松島登美子、同横田和子に対し各四一五万八〇二六円及びこれに対する前同日から完済まで年五分の割合による各金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人ら

主文同旨。

2  被控訴人

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

二  当事者の主張及び証拠関係

次に付加するほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1  控訴人らの主張

(一)  追加的主張

被控訴人は、控訴人が原審において主張したように、原審被告乙山春夫とともに午後八時三〇分頃から翌日の午前一時頃までの間、クラブやスナック等で酒を飲み歩き、○○町に帰宅するに際し、同人が酒に酔い正常な運転ができない状態にあったのにかかわらず敢えて自動二輪車を運転しようとしたことを制止しなかったばかりか、これを容認し、同二輪車の後部座席に同乗してこれを利用し、かつ、運転中の同人に後から話しかける等して同人の前方注視義務を懈怠させ、同人をして右帰途中本件事故を発生せしめたものであるから、被控訴人の右行為は民法第七一九条一、二項にも該当するので、被控訴人は同法第七〇九条並びに第七一九条一、二項に基づき、本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。

(二)  請求の減縮

控訴人らは、本訴請求の各金額を、原判決請求原因4、5記載の範囲内において、原判決が原審被告乙山春夫の関係において認容した限度(本判決主文第二、三項記載の額)に各減縮する。

2  証拠関係《省略》

理由

一  請求原因1及び3の事実は当事者間に争いがなく、《証拠省略》を総合すると、(一)被控訴人と加害車の運転者乙山春夫とは中学時代からの同級生で本件事故当時両名とも一六歳の未成年者であったが、互いに近隣に居住していて、ときどき一緒に飲酒するなど親しい間柄であったこと、(二)被控訴人は、本件事故当日の午後八時三〇分頃、右乙山から長崎市○○町所在の××寿司店に呼び出され、同店で共にビール数本を飲んだが、更に同人から同所から七キロメートル位離れている同市の中心部に遊びに行くことを誘われ、同人が酒に酔っていることを知りながら、同人の運転する自動二輪車の後部座席に同乗して、同市中心部のダンスホールに行って遊び、次いでスタンドバーで同人と共にウィスキーの水割等を数はい飲み、更に焼鳥屋でビールを飲むなど、翌日午前一時頃まで同人と一緒に飲み歩いたこと、(三)その結果、右乙山は酒に酔い正常な運転ができない状態となっていたが、なおも自動二輪車を運転して○○町の自宅まで帰ろうとしたところ、被控訴人は、乙山が右のように酒に酔い正常な運転ができない状態にあることを知りながら、同人の右運転を制止しなかったばかりか、同自動車の後部座席に同乗し、同人の右運転を容認して運転を開始させ、かつ、時速五〇キロメートル位で進行中の同人に後部から話しかけるなどして、同人の前方注視をおろそかにさせたこと、(四)運転者乙山は、右帰途、右のように酒に酔い、かつ、被控訴人と話をするなどして前方注視を怠ったため、道路上のマンホールで作業中の亡喜代次に約七メートルの至近距離に至るまで気付かず、同人に自動二輪車を衝突させて本件事故を発生させたこと、以上の事実が認められる。

二  右認定の事実からすると、被控訴人が、前記のように乙山と長時間一緒に酒を飲み歩いた末、酒に酔い正常な運転ができない状態にある乙山が自動二輪車を運転することを制止せず、これを認容して自らその後部座席に同乗し、運転中の乙山に後部から話しかけるなどしたことは、右乙山の惹起した本件事故に関し、民法第七一九条二項の幇助者として責任があるものと認定するに十分である。

三  亡喜代次並びに控訴人らの損害について、

この点に関する当裁判所の判断は、原判決の理由三及び四の説示と同一であるから、これを引用する。但し、原判決一三枚目裏末行の「甲第四ないし第五号証」を「甲第四、第五号証及び弁論の全趣旨」と、同一四枚目表一二行目から一三行目にかけて「被告秋夫及び被告同春夫は、各自、」とあるのを「被控訴人は、」と各改める。

四  そうすると、原判決中、控訴人らの被控訴人に対する本訴請求を棄却した部分は失当であって、控訴人らの本件控訴はいずれも理由があるので、原判決中、同部分を取消し、控訴人らの本訴請求をいずれも認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤次郎 裁判官 原政俊 寒竹剛)

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